当記事の要旨
- 自院に興味を持たせたいという想いが失敗の最大原因
- 広報誌のターゲットは地域連携しているクリニックに限定する
- 地域連携しているクリニックの良さをこれでもかとアピールする
- 紹介患者の治療経過は宝の山
- 広報誌をWebに移行すればSEO対策での副次効果が見込める
愚問である事を承知で聞きますが、この記事を見ているという事はあなたの病院の病院広報誌はきっと迷走していますよね?
なぜちょっと意地悪な聞き方をしたかと言うと、全国で発行されている病院広報誌の99%が無用物になっている事を私は知っていたので、この記事を読んでいるあなたの病院でもきっと迷走しているだろうと思ったからです。
迷走する最大の理由はターゲットのズレです。ターゲットがズレると記載する内容も当然ズレてしまいますので、手間暇かけて作成した広報誌はゴミ箱ポイされてしまうか、一度も手に取られる事なく生涯を終える運命にあります。
正解を先に言うと、病院広報誌のターゲットは地域連携しているクリニック、あるいはこれから地域連携したいと思っている地域のクリニックで、書く内容は当該のクリニックを持ち上げて間接宣伝してあげる記事と、当該のクリニックがメインとしている疾病に関する医療コラムです。
なぜこの結論に至ったのかを以下で解説していきます。
メモ
当記事は地域連携している総合病院向けの内容です。事実上地域連携していない規模の小さな病院やクリニックの広報誌については別途解説いたします。
最高の広報誌を作ったとしても集患はできない
まずド基本から。
- 日本最高のクリエイターが作った広報誌
- 素人が一人で制作した適当な広報誌
このどちらが集患の成果を上げられるでしょうか。
答えは「どっちも大して集患できない」になります。しいて言えばプロが制作した広報誌の方がほんの少しは良い結果を出せるかも知れませんが、そもそもの問題として総合病院の広報誌で集患させることは原理的に無理です。
チラシやティッシュを配って集客した経験のある人ならご存じだと思いますが、チラシやパンフレットを手に取った人が実際に来店する(来院する)率は、日本最高のクリエイターが作った広報誌だとしてもせいぜい0.5%くらいのもので、素人に毛が生えたような広報誌なら反応率が0.1%以下になるのが普通です。
0.2%ならそこそこ優秀で、反応率が0.3%に安定して届いたら相当才能がある証拠なので、その実績を引っ提げて広告代理店に転職した方がいいと思います。
つまり、患者を10人来院させようと思ったなら最低でも1万人以上の潜在患者に病院広報誌を手に取ってもらわないといけない計算になりますので、この時点で無理ゲー(攻略困難なゲームの事)な事が分かると思います。広報誌(チラシも広報誌の一種)とはそういうものなのです。
ですので、私がクライアントに相談を受けたら「広報誌は意味ないのでやめてください」と言うことがほとんどです。
インターネットがない時代にはもう少し反応率は良かったのですが、広報誌で集患するのはもう無理だしこれから先はもっと無理です。
この時点でペンを置きたいのですが、

このような方↑のために、集患できる広報誌について解説を続けてみましょう。
総合病院にとって重要な集患ルートは地域のクリニック
総合病院の集患ルートは主に3つあると思います。
- 患者さん(が直接来院する)
- 地域のクリニックからの紹介
- 救急車
①を広報誌で狙うのは無理ゲーだとすでに説明しました。ここで注目したいのは②の「地域のクリニックからの紹介」です。
以下は厚労省が2017年に公表したデータですが、外来患者も入院患者も「医師による紹介」、つまり地域連携しているクリニック経由で来院するケースが多いことを示しています。
このデータは広報誌戦略を考える上で大変重要です。
そうです。「医師からの紹介」を増やすために広報誌を使えばいいのです。理解を深めるために心理学についての座学を一つ挟みます。
鶴の恩返し(返報性の原理)
心理学上の小難しい用語を使うと「返報性の原理」と言いますが、誰もが知る言葉だと「鶴の恩返し」で、英語だとギブ&テイクあたりになるでしょうか。
人は恩を受けたら恩を返ししたくなる特性を持っており、それを「返報性(へんぽうせい)の原理」と呼んでいます。
我々に一番身近な返報性の原理の達人は何と言ってもワン(犬)ちゃんです。
ワンちゃんがなぜ数多くいる動物の中で圧倒的に人気があるのでしょうか。見た目がかわいいからでしょうか?たしかにそうかも知れませんが、ブルドックとかパグとかピットブルとか、決して美人ではないワンちゃんも人気ありますよね。
ワンちゃんの作戦はワンパターンです。
「ワンちゃんはワンパターンにワンチャン(ワンチャンス)を狙っている」
という親父ギャグが脳裏に思い浮かんでいるのをグッとこらえて(こらえてない)説明を続けますが、ワンちゃんの作戦は愛くるしく飼い主に近寄ってきてこれでもかこれでもかと愛情表現をする、たったこれだけです。
愛情表現されるとされた側はどう思うでしょうか?当然ですが「かわいいなコイツ」と思って、思わず頭とかを撫でてしまいますよね。ワンちゃんは「先に」愛情を飼い主にギブして、撫でてもらうというテイクを受け取る、まさに返報性の原理です。
ワンちゃんの例でピンとこないなら、上司と部下で返報性の原理を説明してみましょう。
- いつもガミガミ怒る上司
- 褒めてくれる上司
あなたが部下だったとして、上記①②のうちどちらの上司のためにがんばろうと思いますか?っと聞くまでなく「①褒めてくれる上司」のためにがんばろうと思いますよね。
病院広報誌でもこの原理をそのまま使ってしまいましょう。
地域連携しているクリニックを広報誌で褒めてあげる
病院広報誌は前半後半の2部構成にします。
前半は地域連携しているクリニックを主役にして、特に院長を上手に褒めてあげましょう。地域医療への貢献をほめてもいいし過去の論文を褒めててもいいし、専門分野を褒めてもいい。褒めるなら何でもいいです。
メモ
褒めるといっても、そこは病院広報誌なので「このクリニックはすげえ」みたいなのは逆効果になりかねないので間接的に褒めるようなPRの仕方をしてあげて下さい。
自院や自分を広報誌の主役として取り上げ褒めてもらった院長は、自分褒めてくれた総合病院の事をどう思うでしょうか?

っと思うことはまずありえないですよね。よほどひねくれてない限りは「総合病院が俺を認めてくれた」と大いに喜ぶはずです。
この手法を駆使していたのが「人たらし」で有名な豊臣秀吉です。
真田昌幸(真田幸村のパパ)を懐柔するために、秀吉はワザと徳川家康と真田昌幸を同座させて「このワシが(格上の)家康と同座したぞよ」と大いに喜び、真田昌幸はその恩を忘れず秀吉のために働いたという逸話があります。秀吉はプライドの高い田舎侍の扱い方を良く分かっていたのです。
地域のクリニックにとって「総合病院=豊臣秀吉」とは言いませんが、各上の人に褒められて喜ばない人間はいませんし、総合病院の広報誌で自院を取り上げてくれたなら、その恩を忘れることはないでしょう。子供にも自慢できるし町内会でも鼻高々です。
例えば地域に2つの総合病院がもしあったとして、褒めてくれた総合病院と褒めてくれない総合病院があった場合、どちらに優良な患者を回しどちらに地雷患者を回すでしょうか。恐らく褒めてくれた総合病院に良い患者を回してくれそうですよね。
もし患者を紹介してくれなかったとしても、良い連携が取れる「きっかけ」としては十分だと思います。
後半は地域のクリニックが欲しがっている患者向けの情報にする
病院広報誌は前半後半で分けるという話をしましたが、後半も地域のクリニックが喜ぶ内容にしましょう。
ベストは地域のクリニックが欲しがっている洗剤患者に刺さる医療コラムです。例えば相手が腎臓病に強い内科クリニックさんなら腎臓に関する医療コラムを総合病院の立場から書き、コラムの中で柔らかく当該のクリニックを紹介してあげてください。
取り上げてくれた地域のクリニックの院長は、間違いなくその広報誌を自院の目立つ所に置いておくでしょうし、場合によっては「100部増刷してくれませんか?」と頼んでくるかも知れません。
総合病院が客観的に自分のクリニックを宣伝してくれてるわけですから、地域の潜在患者さんにその広報誌を配れば集患のチャンスが増えますからね。
後はドンと構えておきましょう。どういう形で鶴の恩返しがくるか分かりませんが、反応率0.1%以下の広報誌よりはよほど集患の役に立つと思います。
取材前に理事長や院長から連絡すれば医事課は動きやすい
地域のクリニックをとりあげるわけですから一度仁義を切る必要があります。院内外の写真も必要ですし院長や看護師などのスタッフ写真も欲しいですよね。
ベストは理事長から下記のような電話を先方さんに入れてもらうことです。

先方さん(地域のクリニック)は間違いなく「是非よろしくお願いします!」と大喜びします。そして出来上がった広報誌は理事長が持参するのがベストですが、それが難しいなら連携室のスタッフが持参しましょう。
「広報誌が出来上がりました」
と丁寧に頭を下げて手渡しすれば連携室とクリニックの院長と顔がつながり、その後の前方連携後方連携がスムーズになると思います。
自院に興味を持たせたいという想いが失敗の最大原因
病院広報が失敗する理由はターゲットの選定ミスだとここまで説明してきましたが、別の角度からも「失敗の理由」を考察します。
あなたの病院の広報誌は自院の紹介に終始していないでしょうか。
各科の案内や連携室や医事課、栄養科や看護部、薬剤課などなどをまんべんなく紹介して、最後は笑顔でガッツポーズしている集合写真、みたいなのが標準的な広報誌だと思います。
これを見て誰が興味を示すでしょうか?
広報誌で自院を紹介するのは全く無意味です
人間は本質的に自分にしか興味が持てない生き物です。例えばあなたの家の近くにレストランが出来たとします。
そのレストランが作成したチラシ(コックやスタッフなどの写真を載せて笑顔でガッツポーズしている)が新聞と共に届けられたり、あるいは駅でチラシをティッシュと共に配られて、
「いい笑顔だ。雰囲気良さそうだからここに食べに行こう♪」
とはならないですよね。他人に興味なんて湧きっこないですから。
でも、例えばあなたがラーメン二郎(という大変有名なラーメン屋があります)のファンだったとして、「ラーメン二郎の作り方(レシピ)」が書いてあるチラシが配られてきたらどうでしょうか。
きっと穴が開く勢いでそのチラシを読み込み配り主であるラーメン屋に興味を持ち、なんならチラシを見たその日に食べにいく可能性さえあると思います。
病院広報誌もこの例と同じで、手に取った相手に興味がある内容に終始する必要があります。
地域連携で患者を紹介して欲しければ紹介元のクリニックが喜ぶ内容(院長を間接的に褒める等)にする必要があるし、もう一つの集患ルートである「救急車」に好意的に思われたいのであれば救急隊のスタッフを取材して広報誌に取り上げれば多いに喜んでくれます。
まとめ
病院広報誌の失敗要因を整理します。
広報誌などのチラシ系での反応率(配った広報誌を分母にして実際に来院した患者を分子にして計算)はどんなに良い広報誌でも0.2%未満で、普通なら0.1%を切ります。
まずこの事実を知った時点で広報誌廃止を検討すべきですが、仕事を始めるのは簡単でも今までやってきた仕事(広報誌制作)やめる決断は難しいのが組織というものなので、もし広報誌を作るなら地域のクリニック向けに制作しましょう。
できれば理事長や院長などの権力者が取材先となる地域のクリニックに一本電話を入れて相手を喜ばせればその後の制作がスムーズになりますね。
制作するのは企画室広報課みたいな部署でも良いですが、完成品は郵送はせず連携室が直接相手方のクリニックに持っていくようにするとより効果的です。
連携しているクリニックが10以上あれば順繰りに取材対象にしてあげて彼らを主役にした広報誌をつくり集患の手伝いをしてあげれば、いつか必ず「鶴の恩返し」が起きる事でしょう。
間違っても発行元の総合病院が広報誌で自院を紹介するのはやめてください。それで満足するのは理事長くらいのもので、広報誌制作にかけてきた手間暇お金全てが無駄に終わります。
なお、紙媒体での広報誌制作が難しい場合はWeb化をおすすめします。というかWeb化した方が集患確率は上がるし、あなたの病院に直接来院する患者の数も紙の広報誌より確実に増えますので、広報誌のWeb化を頭の片隅に入れておいてください。
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